社労士が解説!あなたの生活を守る傷病手当金

皆様こんにちは。社会保険労務士の出口勇介です。

健康保険では、病気やケガ、出産、死亡に際して様々な給付がなされます。

今回は、その中でも病気やケガで働けなくなった人の所得保障を目的とした給付である「傷病手当金」について解説します。

1 傷病手当金とは

傷病手当金とは、健康保険に加入している方(以下、「被保険者」)が病気やケガで働けなくなったときに所得保障を目的として支給される保険給付のことをいいます。

健康保険の被保険者が対象であるため、健康保険に加入していない方(例:自営業者、パート労働者など)は、健康保険から傷病手当金は支給されません。

また、被保険者に扶養されている方(被扶養者)についても、傷病手当金の支給はありません。被扶養者は、そもそも被保険者に生計を維持されている者であるため、所得保障の必要がないからです。

2 傷病手当金の支給要件

傷病手当金の支給要件は、次のとおりになります。

・病気やケガが業務災害以外の事由であること(私傷病)

・療養のためであること(健康保険法第99条第1項)

・労務に服することができないこと(健康保険法第99条第1項)

・継続して3日間の待機期間を満たしていること(健康保険法第99条第1項)

要件①:病気やケガが業務災害・通勤災害以外の事由であること(私傷病)

傷病手当金の対象となる病気やケガは、業務災害・通勤災害以外の事由であることを要します。

業務災害・通勤災害を理由とする場合は、健康保険ではなく労働者災害補償保険から給付がなされるため、傷病手当金は支給されません。(健康保険法第55条)

ただし、被保険者数が5人未満である適用事業所に使用される法人の役員である被保険者であって、当該法人における従業員が従事する業務と同一であると認められる業務に従事している者が、業務遂行の過程において業務に起因する病気やケガを負った場合(業務災害)は、例外的に傷病手当金の対象となります。(健康保険法第53条の2、健康保険法施行規則第52条の2)

※ なお、業務災害・通勤災害以外の事由による病気やケガが、健康保険の被保険者となる前のものであっても被保険者の資格取得が適法であれば、傷病手当金の支給の対象となります。

要件②:療養のためであること

私傷病の「療養のため」に休職している必要があります。

「療養のため」とは、健康保険の給付として受ける療養(診察・手術・治療・入院など)に限られず、自宅療養や病後の静養も対象となります。

なお、美容整形手術など、そもそも「病気やケガでないもの」のためにした療養に対しては傷病手当金は支給されません。

要件➂:労務不能であること

「労務不能」とは、仕事に就くことができない状態をいいます。

労務不能であるかは、医学的な基準によってのみ判断されるのではなく、被保険者の本来の業務に堪えられるかどうかにつき、医師の意見や被保険者の業務の内容、その他の諸条件を考慮して判断されることになります。

また、「本来の業務」に堪えられるかどうかを基準に判断するため副業や内職などの業務ができる場合であっても、「本来の業務」ができないと判断されるのであれば、労務不能に該当します。

要件④:継続して3日間の待機期間を満たしていること

上記の要件①~③を満たした日(以下、「労務不能日」という)が連続して3日間あることが必要です。

この3日間を「待期期間」といい、待期期間については、傷病手当金は支給されず、4日目の労務不能日から支給が開始します。

待期期間の注意点

待期期間には、下記のルールがあります。

①待期期間の起算日は最初の労務不能日であるが、業務終了後に労務不能となった場合は、その翌日が起算日となります。

②労務不能日が公休日にあっても待期期間に含まれます。(例:日曜日が休みの会社で、金・土・日が労務不能であれば待期期間を満たします。)

➂労務不能日を年次有給休暇で処理した場合も待期期間に含めます。

④待期期間の計算は、同一の傷病につき1回のみ行います。したがって、一度待期期間を満たした後に労務可能となり傷病手当金が支給されなくなった場合でも、同一の傷病により再び労務不能となったときは、再度待期期間を満たすことを要さず、就労不能日の初日から傷病手当金が再び支給されます。

3 支給額

3-1 支給額の計算方法

傷病手当金は、労務不能日1日ごとに下記の計算により算出した額を支給します。(健康保険法第99条第2項)

なお、傷病手当金の額は支給開始日(待期期間満了後の就労不能日4日目)に決定され、以後変更されることはありません。

傷病手当金の額の計算方法

傷病手当金の額(1円未満の端数は四捨五入) = 支給を始める日の属する月以前の直近の継続した12ヵの標準報酬月額を平均した額の30分の1に相当する額(10円未満の端数は四捨五入)(※) × 3分の2

※ 標準報酬月額が定められている月が12ヵ月に満たない場合にあっては、下記の額のうちいずれか少ない額とする。
① 支給開始日の属する月以前の直近の継続した各月の標準報酬月額を平均した額の30分の1に相当する額
② 支給開始日の属する年度の前年度の9月30日における全被保険者の同月の標準報酬月額を平均した額を標準報酬月額の基礎となる報酬月額とみなしたときの標準報酬月額の30分の1に相当する額(具体的な金額はコチラをご確認ください。)

3-2 傷病手当金の調整

傷病手当金は、所得保障として支給されるため、事業主から報酬を受けたり、他の社会保険から給付を受けているような場合は、支給額が調整されることがあります。

傷病手当金が調整されるケース

下記の事由に該当する場合は、原則として傷病手当金が支給されません。

① 労務不能日について事業主から報酬の全部又は一部を受けている場合

② 出産手当金が支給される場合

➂ 同一の傷病により障害厚生年金の支給を受けている場合

④ 同一の傷病により厚生年金保険法の障害手当金の支給を受けている場合

⑤ 被保険者資格喪失後において傷病手当金の継続給付を受けるべき者が、老齢退職年金給付の支給を受ける場合

⑥ 労災保険法の休業補償給付又は休業給付の支給を受けている場合(当該傷病とは別の傷病である場合)

なお、上記①~⑥(④を除く)の1日分の額(※)が傷病手当金の額よりも少ないときは、その差額が支給されます。

例えば、傷病手当金の額が1万円で、上記①~⑥(④を除く)の1日分の額が8000円のときは差額2000円の傷病手当金が支給されます。

※ ➂、⑤の1日分の額の計算方法は、「年金額 ÷ 360日」となります。(1年を30日×12ヶ月で計算しているため365日ではなく360日である点に注意してください。)

また、上記④の場合は、傷病手当金の合計額が障害手当金の額に達したとき、それ以後の傷病手当金については支給されます。

複数の調整事由に該当する場合の調整

③の障害厚生年金の支給を受けており、かつその額が傷病手当金の額よりも低い場合において、下記の事由に該当するときは、傷病手当金について下記のような調整がなされます。

①の報酬を受ける場合(傷病手当金と③、①の支給)

「傷病手当金の額」と「障害厚生年金と報酬の額を比べていずれか高い額」との差額の傷病手当金が支給されます。

②の出産手当金の支給を受ける場合(傷病手当金と③、②の支給)

「傷病手当金の額」と「障害厚生年金と出産手当金の額を比べていずれか高い額」との差額の傷病手当金が支給されます。

①の報酬と②の出産手当金の支給を受ける場合(傷病手当金と③、①、②の支給)

「傷病手当金の額」と「障害厚生年金と(報酬の額と出産手当金の合算額)を比べていずれか高い額」との差額の傷病手当金が支給されます。

4 支給期間

傷病手当金の支給期間は、「 支給開始日(待期期間満了後の就労不能日4日目) から起算して1年6ヵ月まで」とされていましたが、健康保険法が改正され、「支給開始日から通算して1年6ヵ月間」となりました。(施行日:令和4年1月1日)

「通算して1年6ヵ月間」の意味とは

傷病手当金は労務不能日に支給するものであるため、一時的に病状が回復し労務可能となったときは傷病手当金は支給されなくなります。

健康保険法改正前は、 この労務可能となり傷病手当金が支給されない期間(以下「無支給期間」という。)についても、 傷病手当金の支給期間は進行し、同一傷病により再び労務不能となった場合でも、支給開始日から1年6ヶ月を経過した時点で支給が終了していました。

改正後は、当該無支給期間については支給期間が減少せず、同一傷病について1年6ヶ月分の傷病手当金が支給されることになります。これが「通算」の意味です。

なお、この「1年6ヶ月分」とは、 支給開始日(待期期間満了後の就労不能日4日目)から暦に従い1年6ヶ月間の日数のことをいいます。

例えば、令和4年1月1日に労務不能となり待期期間を満了した1月4日も労務不能である場合、支給開始日である令和4年1月4日から令和5年7月3日までの1年6ヶ月間の暦日数である546日間が支給期間となります。

そして、当該支給期間は無支給期間の日数分については減少しないため、上記の例から、令和4年1月4日から1年間(365日間)は労務不能で、令和5年1月4日から労務可能となり無支給期間が6ヶ月続いた後に再び同一の傷病により労務不能となった場合は、残りの181日間(支給期間(546日)-消化した支給期間(365日))について傷病手当金の支給が受けられることになります。

※ 改正前は、無支給期間は関係なく支給開始日から1年6ヵ月経過した日に、傷病手当金の支給が終了していたので、この例では、再び傷病手当金が支給されることはありませんでした。

今回の改正(通算化)の適用については、施行日の前日(令和3年12月31日)において支給開始日から起算して1年6月を経過していない傷病手当金について適用し、施行日前に改正前の規定による支給期間が満了した傷病手当金については、改正前の法律が適用されることになります。(改正法附則第3条第2項)

したがって、令和2年7月2日以後に支給を始めた傷病手当金については、施行日の前日(令和3年12月31日)において支給を始めた日から起算して1年6ヵ月を経過していないため、改正後の規定が適用され、支給期間が通算されることになります。

5 資格喪失後の継続給付

前述のとおり傷病手当金は健康保険の被保険者に対して支給する保険給付となります。

したがって、被保険者資格を喪失した者(退職者)には支給されません。

しかし、傷病手当金の受給者は、病気やケガにより労務不能な者であるため、被保険者の資格喪失後(退職後)すぐに就職できず、生活が不安定となる可能性があります。

そこで、健康保険法では、一定の要件を満たしている者について資格喪失後も引き続き傷病手当金の支給を受けられるようにしています。(継続給付)

傷病手当金の継続給付の要件

傷病手当金の継続給付を受けられる要件は下記のとおりです。(健康保険法第104条)

① 被保険者の資格喪失日(任意継続被保険者の資格を喪失した者にあっては、その資格を取得した日)の前日まで引き続き1年以上被保険者(任意継続被保険者又は共済組合の組合員である被保険者を除く。)であった者

※ 「被保険者の資格喪失日」は退職日の翌日なので、その前日とは退職日を指します。

② 資格を喪失した際に傷病手当金の支給を受けているもの

※ 資格を喪失した際に、傷病手当金の支給を受けている必要があるので、退職日に労務可能である場合は、継続給付の対象にはなりません。

なお、資格喪失後の継続給付については、支給期間である1年6ヶ月が満了したときだけでなく、労務可能となった時点で以後傷病手当金が支給されることはありませんので注意が必要です

6 まとめ

いかがでしたでしょうか。

傷病手当金は、もらえる額も高額であり、支給期間の通算化により、更に手厚い社会保障となっています。

休職4日目からでももらえるため、もらい忘れのないようにしてください。

※ 傷病手当金に関連する記事も併せてご一読ください。

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投稿者プロフィール

八王子の社会保険労務士・司法書士 出口勇介
八王子の社会保険労務士・司法書士 出口勇介
東京都八王子市にて、社会保険労務士・司法書士をしております。

1988年3月22日生まれ
三重県伊勢市出身(伊勢神宮がすぐ近くにあります。)
伊勢の美しい海と山に囲まれて育ったため穏やかな性格です。
人に優しく親切にをモットーとしております。
写真が趣味でネコと花の写真をよく撮っています。