賃金支払日の変更に伴う注意事項

皆様、こんにちは。社会保険労務士の出口勇介です。

賃金締日から支払日までの間が短いため給与計算が大変であるなどの理由から賃金支払日を変更したいという要望をいただくことがあります。

賃金支払日を変更すること自体は可能ですが、変更には労務管理上いくつかの注意点があります。

本稿では、適正に賃金支払日を変更するためには、どのような点に気を付ける必要があるのかを解説します。

1 賃金の5原則

賃金の支払いには、労働基準法上、下記の5つルールが存在します。

① 通貨払いの原則

② 直接払いの原則

③ 全額払いの原則

④ 一定期日払いの原則

⑤ 毎月1回以上払いの原則

賃金の支払日を変更するにあたっては、上記のうち④一定期日払いの原則⑤毎月1回以上払いの原則に反しないかが問題となります。

2 一定期日払いの原則に違反しないか?

一定期日払いの原則とは、例えば「毎月10日に支払う」などように、一定の周期で到来する特定の期日に賃金を支払う必要があることをいいます。

では、賃金の支払日を変更することは、この一定期日払いの原則に違反することにはならないのでしょうか。

確かに、変更した月に関しては、一定の周期で訪れる特定の期日に支払い日が到来しないことになります。

しかし、その後は毎月一定期日に支払い日が到来することになるため、この原則に違反しません。

したがって、支払い日を変更すること自体は可能という結論になります。

3 毎月1回以上払いの原則に違反しないように変更

賃金は、一定期日に支払うだけでなく、毎月1回以上支払う必要もあります。(毎月1回以上払いの原則)

よって、支払い日を変更した月に1回も支払い日がないような変更はできません。

例えば、「20日締め、当月25日払い」を「20日締め、翌月5日払い」に10月1日から変更したとします。

この場合、8月21日~9月20日までの分を9月25日支払い、9月21日~10月20日までの分を11月5日に支払うことになるので、10月に1回も支払い日がないことになります。

したがって、このような変更は認められません。

4 就業規則の変更が必要

賃金の支払日を変更するには、就業規則を変更する必要があります。

注意するべきは、支払日を後ろ倒しに変更する場合です。

支払日を後ろ倒しにすると、変更月において賃金が支払われるまでの期間が長くなり、労働者の生活に支障(生活費が足りなる、クレジットカードの支払日と合わなくなるなど)がでる可能性があります。

就業規則の変更においては、労働者に不利益となるような変更(不利益変更)は原則として認められておらず、不利益変更が認められるには、下記の要素に照らし、その変更が合理的なものである必要があります。

・ 労働者が受ける不利益の程度

・ 労働条件の変更の必要性

・ 変更後の就業規則の内容

・ 労働組合等との交渉の状況

など

支払日を変更する際には、労働者とよく話合いを行い、変更までの十分な期間を設けたり、場合によっては生活費の貸付を行うなどして、労働者の不利益にならないようにしましょう。

5 就業規則変更の手続き

賃金支払日を変更した就業規則が効力を生じるには、下記の手続きが必要です。

① 事業場の労働者の過半数で組織する労働組合がある場合はその「労働組合」、当該労働組合がない場合は、「労働者の過半数を代表する者」の意見を聴くこと

② ①の意見を書面にしたものを添付して、変更した就業規則を労働基準監督署長に届け出ること

③ 変更した就業規則を労働者に周知させること

6まとめ

いかがでしたでしょうか。

以上みてきたとおり、賃金の支払日の変更には、時間と手間がかかります。

支払日を決定する際は、慎重に決め、なるべく後で変更しなくてすむようにしておきましょう。

投稿者プロフィール

八王子の社会保険労務士・司法書士 出口勇介
八王子の社会保険労務士・司法書士 出口勇介
東京都八王子市にて、社会保険労務士・司法書士をしております。

1988年3月22日生まれ
三重県伊勢市出身(伊勢神宮がすぐ近くにあります。)
伊勢の美しい海と山に囲まれて育ったため穏やかな性格です。
人に優しく親切にをモットーとしております。
写真が趣味でネコと花の写真をよく撮っています。