1 定年年齢と高年齢者雇用確保措置
定年年齢の制限
定年年齢については、原則として60歳未満とすることができないという制限があります。(高年齢雇用安定法第8条)
65歳まで安定した雇用を確保する義務
65歳未満の定年を定めている事業主については、65歳まで安定した雇用を確保するため、下記のいずれかの措置を講じる義務を負います。(高年齢雇用安定法第9条第1項)
① 65歳までの定年の引き上げ
② 65歳までの継続雇用制度の導入
③ 定年の定めの廃止
「継続雇用制度の導入」を選択した場合、希望者全員を対象としなければなりません。
また、定年後の雇用契約を有期雇用とする場合には、有期契約の更新の際に社員が希望すれば、原則として65歳まで更新が認められる必要があります。
以上の要件を満たさない場合には、65歳までの継続雇用制度を導入したとは言えないので注意してください。
なお、継続雇用雇用制度の対象となる社員が雇用される会社の範囲は、自社だけでなくグループ会社(特殊関係事業主)であってもよいとされています。 (高年齢雇用安定法第9条第2項)
定年年齢70歳とする努力義務
令和3年4月より、改正高年齢雇用安定法が施行され、事業主は、70歳までの安定した雇用を確保するとする努力義務が課せられました。
これは「努力義務」ですので、社員を70歳まで雇用するよう努力すれば足り、かならずしも70歳まで雇用しなければならないわけではありません。
具体的な措置としては、以下の措置を講ずる努力義務が課されています。
① 70歳まで定年の引き上げ
② 70歳までの継続雇用制度の導入
③ 定年の定めの廃止
④ 創業支援等措置
また、社員を70歳まで雇用していくとなると、加齢による判断力・注意力の低下により労働災害が発生しやすくなります。
事業主としては、作業内容を軽易なものにするなどして、労働災害の予防にも取り組みましょう。
(※70歳定年制については、別の記事でより詳しく説明します)
2 定年再雇用に伴う賃金の低下
賃金低下は適法か
定年に達した社員を嘱託職員として再雇用する際に、賃金を低下させる会社は多いと思います。
この賃金を低下させること自体は、違法ではありません。
しかし、定年後の仕事内容及び人材活用の仕組みが正社員のときと全く同じである場合、基本給について、定年前の賃金と比べて6割を下回る賃金にすることは不合理であり認められないとされています。(名古屋地裁令和2年10月28日判決)
高年齢雇用継続基本給付金の支給
60歳に到達した時点で雇用保険の加入年数が5年以上ある社員は、定年再雇用などにより低下した賃金が、60歳到達時点の1ヶ月の賃金額(雇用保険法第61条の規定に従って計算した賃金額)と比べて、75%未満となった場合は、雇用保険から、高年齢雇用継続基本給付金が支給されます。(支給される期間は、65歳までです。)
支給額は、賃金の減額率によって変わります。
賃金が、60歳到達時の1ヶ月の賃金額の61%未満となった場合は、賃金額の15%が高年齢雇用継続基本給付金として支給されます。
賃金が、60歳到達時の1ヶ月の賃金額の75%未満61%以上の場合は、賃金額に一定の支給率(15%から一定の割合で逓減する率)を乗じた額が支給されます。※計算方法が複雑なため具体的な計算方法は割愛します。
定年後再雇用に伴う社会保険料の改定
賃金が低下すると、通常は、社会保険の額を改定する月額変更という手続きをとります。
月額変更の手続きをとると、賃金の変動があった月の4カ月後の月から標準報酬月額(保険料の計算の基礎となる賃金額)が変わるととなります。
つまり、定年再雇用により賃金が低下しても4カ月間はもとの高い賃金のまま社会保険料が計算されることになり、保険料が高いままとなります。
そこで、60歳以上の社員が退職後継続して再雇用する場合については、一旦雇用が終了し、同日付で再び入社したものとして扱うことで、入社時における標準報酬月額の決定を利用することができるとの取扱が認められています。(平成 8 年 4 月 8. 日保文発第 269. 号・庁文発第1431号、平成25年保保発0125第1号)
これにより、4カ月を待たずに定年再雇用により賃金が低下した月から、安い保険料に変更することができます。
投稿者プロフィール
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東京都八王子市にて、社会保険労務士・司法書士をしております。
1988年3月22日生まれ
三重県伊勢市出身(伊勢神宮がすぐ近くにあります。)
伊勢の美しい海と山に囲まれて育ったため穏やかな性格です。
人に優しく親切にをモットーとしております。
写真が趣味でネコと花の写真をよく撮っています。
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