通勤途中にケガをしたときの対応

労働者が通勤途中にケガをした場合、どのように対応するべきか詳しく解説していきます。

1 通勤災害に該当するか確認

労働者が通勤途中でケガをした場合、まず、そのケガが「通勤災害」に該当するか確認をします。

通勤災害に該当する場合は、病院で健康保険証が使えず、労災保険から保険給付がなされるためです。

通勤災害に該当するには、

① 通勤であると認められること

② 通勤によるケガであること

の2つの要件を満たす必要があります。

 

1 通勤であると認められること

「通勤」とは、労働者が就業に関し下記の移動を、合理的な経路及び方法により行うことをいい、業務の性質を有するものを除きます。(労災保険法第7条第2項)

・住居と就業の場所との間の往復

・二重就労者の就業の場所から他の就業場所への移動

・単身赴任者の帰省先住居・赴任先住居の間の移動

「就業に関し」とは

移動行為が業務に就くため又は業務を終えたことにより行われることをいいます。(就業との関連性

よって、業務終了後に事業場内でマージャンやサークル活動等を行い、それが就業と帰宅との関連性を失わせるほど長時間(2時間程度)に及ぶような場合は、就業との関連性が否定され、通勤に該当しなくなります。

「移動」

移動の経路から外れたり(逸脱)、移動途中で通勤のとは関係のないことを行う(中断)と、その逸脱・中断の間及びその後の移動は通勤には該当しないことになります。(※逸脱・中断行為がささいな行為であれば逸脱・中断には該当しません。)

ただし、逸脱・中断が下記の日常生活上必要な行為であり、それを行うため最小限度のものであるときは、その間については通勤とはならずその後合理的な経路に戻った後は通勤とされます。(労災保険法第7条第3項)

・ 日用品の購入

・ 職業訓練を受ける

・ 選挙権の行使等

・ 病院等での診察・治療等

・ 要介護状態にある配偶者、子、父母、祖父母及び兄弟姉妹並びに配偶者の父母の介護(継続的又は反復して行わるものに限る。)

「合理的な経路及び方法」とは

一般に労働者が用いるものと認められる経路及び手段等をいい、具体的には下記のものが該当します。

・ 会社に届出ている鉄道等の経路

・ マイカー等を利用する場合に通常考えられる複数の経路

・ 共働きの労働者が保育所に子どもを預けるための経路

「業務の性質を有するもの」とは

移動行為が事業主の支配下にある場合(例えば、会社が用意したバスで出勤するなど)は、業務の性質を有するものとなります。

この場合は、通勤災害ではなく業務災害に該当することになります。

 

2 通勤によるケガであること

「通勤による」とは、通勤に通常伴う危険が具体化したことを指します。

例:自動車にひかれた、階段から落ちてケガをした、台風により物が飛んできてケガをした、暴漢に襲われたなど

2 病院での対応

まずは病院へ

通勤災害が発生した場合は、まずは労災指定病院に行きましょう。

労災指定病院は、厚生労働省ホームページより確認できます。

近くに労災指定病院がない場合や、緊急性が高く労災指定病院を探している余裕がないなどの場合には、労災指定病院以外の病院で構いません。

ケガが酷くなるおそれもありますので、とりあえず病院に行くことを優先しましょう。

※ 労災指定病院以外の病院を受診した場合、後の手続きが異なりますが保険給付額に差異はありません

また、大したケガでなくても破傷風になるおそれもありますので、必ず病院に行くようにしてください。

通勤災害である旨を伝える

労災指定病院に着いたら、通勤災害である旨を伝えてください

通勤災害の場合は、健康保険証が使えず、労災保険からの給付となるためです。

その際、「療養給付たる療養の給付請求書(様式第16号の3)」に必要事項を記載のうえ提出します。

ただし、受診時に上記書類を用意できる場合は稀ですので、そのときは一旦自己負担とし、後日、病院に書類を提出し返金してもらいます。

労災保険からの給付

労災指定病院で受診時に「療養給付たる療養の給付請求書」を提出した場合 、治療費は無料になります。(労災保険法第22条、第13条1項)

したがって、病院で料金を支払う必要はありせん。

なお、前述したとおり受診時に「療養給付たる療養の給付請求書」を提出できない場合は、一旦自己負担になりますが、後日、「療養給付たる療養の給付請求書」を提出した際、病院から全額返金されます。

3 労働基準監督署での手続き

療養給付たる療養の費用請求書の提出

通勤災害で、労災指定病院以外の病院を受診した場合は、窓口での支払いは全額自己負担になります。

その後、労働基準監督署に行き「療養給付たる療養の費用請求書(様式第16号の5)」を提出すると、治療費の全額が返金されます。 (労災保険法第22条、第13条1項)

死傷病報告は必要か

会社は労働災害等により、労働者が死亡し、又は休業したときは、遅滞なく、労働者死傷病報告を労働基準監督署長に提出する必要があります。

しかし、通勤災害は労働災害等に含まれないので、労働者死傷病報告の提出は不要です。

4 通勤災害における会社のペナルティは?

通勤災害は、会社の責任ではないため、基本的に会社にペナルティはありません。

ただし、故意又は過失により保険関係成立届を提出していない場合や、保険料を納付していない場合には、保険給付の費用を徴収されることがあります。(労災保険法第31条第1項第1号、第2号)

5 まとめ

通勤災害は、いつ発生するかわからないものです。

日頃から労災指定病院の場所を把握し、事業所に必要書類を備えておくなどし、もしもの場合に備えておきましょう。

投稿者プロフィール

八王子の社会保険労務士・司法書士 出口勇介
八王子の社会保険労務士・司法書士 出口勇介
東京都八王子市にて、社会保険労務士・司法書士をしております。

1988年3月22日生まれ
三重県伊勢市出身(伊勢神宮がすぐ近くにあります。)
伊勢の美しい海と山に囲まれて育ったため穏やかな性格です。
人に優しく親切にをモットーとしております。
写真が趣味でネコと花の写真をよく撮っています。