役員の社会保険への加入条件は?

皆様、こんにちは。社会保険労務士の出口勇介です。

社会保険は、労働者だけでなく一定の要件を満たした法人の役員も加入する義務があることをご存じですか?

今回は、法人の役員が社会保険に加入する条件について詳しく解説します。

1 社会保険の種類

社会保険の種類は、主なものとして以下の5種類あります。

・ 健康保険(私傷病・出産・死亡に対する保険)

・ 介護保険(要介護状態・要支援状態に対する保険)

・ 厚生年金保険(老後の生活・障害・死亡に対する年金保険)

・ 雇用保険(失業等に対する保険)

・ 労災保険(労働災害・通勤災害等に対する保険)

2 役員の社会保険の加入条件

健康保険と厚生年金保険

健康保険・厚生年金保険の加入条件は、「適用事業所に使用される者」となります。(※「適用事業所」は別の記事で解説しています)

「使用される」とは、雇用関係だけでなく、委任関係も含む概念であり(法人と役員の関係は委任関係です。)、通達では、法人から労務の対償として報酬を受けている役員は法人に「使用されている者に該当するとされています。(昭和24年7月28日保発74号)

役員が、「労務の対償として報酬を受けている者」に該当するか否かは下記の基準により判断されます。(平成22年3月10日疑義照会(回答)№2010-77)

役員が「労務の対償として報酬を受けている」 かの判断基準

その業務が実態において法人の経営に対する参画を内容とする経常的な労務の提供があり、かつ、その報酬が当該業務の対価として当該法人より経常的に支払いを受けるものであるかを基準として判断するとされており、その判断材料として、

・ 当該法人の事業所に定期的に出勤しているかどうか
・ 当該法人における職以外に多くの職を兼ねていないかどうか
・ 当該法人の役員会等に出席しているかどうか
・ 当該法人の役員への連絡調整又は職員に対する指揮監督に従事しているかどうか
・ 当該法人において求めに応じて意見を述べる立場にとどまっていないかどうか
・ 当該法人等より支払いを受ける報酬が社会通念上労務の内容に相応したものであって実費弁償程度の水準にとどまっていないかどうか

などがあげられます。

なお、これらの判断材料はあくまで例示です。

したがって、例えば代表取締役などが定期的に出勤していなくても役員への連絡や職員への指揮命令ができる場合は、出勤をしていないことをもって直ちに健康保険・厚生年金保険に加入できないことにはなりません。

介護保険

介護保険の加入条件は、「40歳以上65歳未満の医療保険(健康保険など)に加入している者となります。

したがって、前述の健康保険に加入する条件を満たした役員で、40歳以上65歳未満の者であれば、同時に介護保険にも加入することになります。

※ 海外在住の役員は、介護保険に加入できません。

※ 65歳以上の方は、医療保険に加入しているか否かに関わらず介護保険の被保険者となります。(保険料は、自らが納めることになります。)

雇用保険

雇用保険の加入条件は、「適用事業に雇用される労働者」となります。(雇用保険法第4条第1項)

「労働者」であることが加入条件であるため、法人の役員は、原則として雇用保険に加入できません。

しかし、これには下記の例外があります。

雇用保険に加入できる役員

会社の役員(取締役など)と同時に部長、支店長、工場長等の従業員としての身分を有する者は、服務態様、賃金、報酬等からみて、労働者的性格の強いものであって、雇用関係があると認められる場合には、雇用保険に加入できます。

※ なお、株式会社の「代表取締役」については、労働者性が認められる余地がないので加入できません。

労災保険

労災保険は、「労働者を使用する事業」が適用事業となり、労働者に該当する者が労災保険から保険給付を受ることができます。(労働者災害補償保険法第3条)

役員は労働者ではないため、原則として労災保険の適用はありません。

しかし、例外として「業務執行権がなく、事実上、業務執行権のある他の取締役等の指揮・監督を受けて労働に従事し、その対償として賃金を受けている者」については、労働者として取り扱われ、労災保険が適用されます。(昭和34年1月26日基発48号)

また、もう一つの例外として労働者として取り扱われない役員であっても、「特別加入」の手続きをすることで労災保険に加入することができます。

労災保険への特別加入

労働者として取り扱われない役員が労災保険に特別加入するためには、

①中小事業主等であること

②当該事業に使用される労働者について労災保険の保険関係が成立していること

③労働保険事務組合に事務処理を委託していること

④その事業に従事する者(家族従業員、その他の役員等)を包括して加入すること

⑤特別加入を申請し、労働局長の承認を得ること

の要件を満たす必要があります。

3 各保険の加入手続き

加入の手続きは下記のとおりです。

① 健康保険・厚生年金保険

加入条件を満たした役員を使用する日から5日以内に、「被保険者資格取得届」を日本年金機構に提出します。

2カ所以上の事業所で加入条件を満たす役員となった場合、「年金事務所の選択の届出」、「2以上の事業所勤務の届出」又は「保険者選択の届出」を使用された日から10日に以内に日本年金機構に提出します。

② 介護保険

特に手続きはありません。

③ 雇用保険

加入条件を満たした役員を雇用した日から10日以内に「雇用保険被保険者資格取得届」に「雇用関係を確認できる書類(定款、就業規則、賃金台帳など)」を添付して、公共職業安定所に提出します。

④ 労災保険

特別加入をする法人の役員は、労働保険事務組合を通じて、特別加入を申請します。

4 報酬から控除される保険料の額は?

役員が社会保険に加入した場合に報酬から控除される保険料の額は下記のとおりです。

① 健康保険料・介護保険料・厚生年金保険料

被保険者である役員については、4月~6月に法人から支払われる役員報酬の平均額(報酬月額)を、保険料額表にあてはめ保険料を算出します。(下表:令和3年3月~(東京都))

例えば、東京にある法人の60歳の役員が月51万円の報酬を受けている場合は、標準報酬月額は「50万円」となり、健康保険料(介護保険料あり)「2万9100円」、厚生年金保険料「4万5750円」が報酬から控除されます。(令和3年度)

※なお、法人は、「上記と同額の保険料」+「こども・子育て拠出金(標準報酬月額×0.36%)」を負担します。

② 雇用保険料

雇用保険に加入できる役員の雇用保険料の額は下記のとおりです。

その月に支払われた報酬 × 雇用保険料率(下表①) = 雇用保険料 が報酬から控除されます。

③ 労災保険料

役員が労働者として扱われている場合であっても、報酬から労災保険料は控除されません。(法人が全額負担)

4 まとめ

いかがでしたでしょうか。

役員も一定の要件を満たすと社会保険に加入することができます。

条件をよく確認して、手続きを忘れずに行なってください。

役員・労働者の保険加入手続のご依頼は、当事務所までご連絡ください。

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投稿者プロフィール

八王子の社会保険労務士・司法書士 出口勇介
八王子の社会保険労務士・司法書士 出口勇介
東京都八王子市にて、社会保険労務士・司法書士をしております。

1988年3月22日生まれ
三重県伊勢市出身(伊勢神宮がすぐ近くにあります。)
伊勢の美しい海と山に囲まれて育ったため穏やかな性格です。
人に優しく親切にをモットーとしております。
写真が趣味でネコと花の写真をよく撮っています。