病気休職者の労務管理

皆様、こんにちは。社会保険労務士の出口勇介です。

今回は、労働者が病気になり休職したいと申し出たとき、会社はどのように対応すればよいかについて詳しく解説します。

1 労働災害か私傷病の確認

まず最初に、当該病気が、業務上のもの(労働災害)か、それ以外の理由によるもの(私傷病)かを確認します。

労働災害か私傷病かにより会社の対応が大きく異なるためです。

なお、本稿は、「私傷病による休職」についての解説になります。

(労働災害による休職については別の記事で詳しく解説します。)

2 病気休職の法的性格

休職とは、労働者の労務提供が不能又は不適当な事由が生じた際に、使用者がその労働者との労働関係を維持しながら労務提供義務を免除又は禁止することをいいます。

本来は、病気になりそれが一定期間に及ぶ場合、労働者は労働契約上の義務である労務提供義務を履行できない状態にあるため、解雇されても仕方ない状況にあるといえます。

しかし、労働者が一定の期間の療養することで病気が治癒する見込みがある場合においても、労働者に直ちに解雇をすることができるのかという問題があります。

休職制度を設ければ、この解雇のリスク(解雇無効と評価されるリスク)を避ることができます。

すなわち、休職期間が満了してもなお治癒しない場合は自然退職として取り扱うことができるのです。

ただし、後述しますが、自然退職が無効である場合もあるので注意が必要です。

3 就業規則への定め

傷病による休職は、労働基準法などの法律で定められた制度ではありません。

したがって、休職の内容については就業規則で定めることになります

また、休職に関する取り決めをした場合、使用者はその旨を就業規則に定める義務があります。

就業規則で定める内容

休職制度を設ける場合、下記の事項を就業規則で定めます。

・休職の定義と適用範囲

・休職中の賃金

・休職の期間と延長の有無

・復職後の措置

・休職期間満了後の措置

など

4 病気休職期間中について

ノーワーク・ノーペイの原則

給与は、会社が、労働者に対し、労働の対価として支払うものです。(労働基準法第11条)

したがって、労務を提供していない状態である休職期間中については、会社は給与を支払う必要はありません。

ただし、就業規則により給与を支給すると定めることは可能です。

傷病手当金

休職期間中は原則として給与が支払われないため、その期間の生活費は傷病手当金で賄うことになります。

傷病手当金の支給要件は、

・健康保険に加入していること

・療養のため労務不能であること

・連続した3日間につき労務不能であったこと

となります。

※傷病手当金については、別の記事で詳しく解説します。

社会保険料の支払い

産前産後休業・育児休業の期間中は社会保険料の免除の制度がありますが、病気による休職期間中については、社会保険料の免除はありません。

したがって、労働者は、社会保険料の本人負担分(毎月給与から天引きされている保険料額)を会社に支払い、会社は休職者の分も含めた社会保険料を納付する義務を負います。

5 復職するには

治癒

復職をするには、病気が「治癒」する必要があります。

「治癒」とは、従前の職務を通常の程度に行える健康状態に回復したことをいいます。

ただし、従前の職務を通常の程度に行える健康状態に回復していなくても、休職者の職種や業務内容が特定されていない場合は、他の業務について現に復職可能な労働を提供することができる状態にあれば、治癒したと判断されます。

なお、復職可能であるかは、労働者側に立証責任があります。

復職の判断

治癒の有無は、日常生活が送れるようになったかではなく、「労働を提供できるようになったか」の観点から判断しなければなりません。

これを判断するためには、休職者の主治医ではなく、産業医の知見が必要となります

そのため休職者が自己の主治医の診断書を提出してきた場合でも、会社は、休職者に産業医の面談・診断を受けるよう要請することができます。

そして復職の最終的な判断は、産業医等の意見を参考に「会社」が行います。

リハビリ出社

産業医等が治癒の有無を判断するために必要な資料が不足している場合や、休職者が復職に対して不安を抱いているような場合は、休職者に試し出勤(リハビリ出社)をさせて、休職前の職務を遂行できるか否の判断材料にすることも考えられます。

6 休職期間が満了したら

自然退職・解雇の検討

休職期間が満了してもなお病気が治癒しないときは、自然退職又は解雇を検討することになります。

ただし、期間満了時に病気が治癒していなかったことをもって直ちに自然退職・解雇が有効になるとは限りません。

下記の点注意が必要です。

① 休職者の職種が特定されていないケース

休職前に従事していた業務には復職できなくても、他の業務については労務の提供が可能であり、かつ、休職者もその提供を申し出ているような場合には、治癒したと判断されるため、自然退職や解雇の取扱は無効となります。

② 休職者の職種が特定されているケース

「従前の職務(特定されている職務)」を通常の程度に行える健康状態にない場合は、原則として休職期間満了により自然退職又は解雇となります。

しかし、例外的に復職当初は一部の業務のみを行わせながら徐々に通常業務に服させることが可能であるならば、休職期間の満了により退職とする取扱いは無効とされます。

退職後の傷病手当金

休職期間が満了し自然退職・解雇になった場合において、

① 退職日まで引き続き1年以上健康保険の被保険者であったこと

② 休職期間中に傷病手当金を受けていた又は受けることができる状態にあること

の要件を満たす者は、退職後も傷病手当金の支給を受けることができます。

7 まとめ

いかがでしたでしょうか。

会社に休職制度があると、労働者は安心して働くことができます。

休職制度の規定がない会社は、これを機に就業規則の見直しをしてみませんか。

就業規則の作成に自信がない方は、当事務所までご連絡ください。

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投稿者プロフィール

八王子の社会保険労務士・司法書士 出口勇介
八王子の社会保険労務士・司法書士 出口勇介
東京都八王子市にて、社会保険労務士・司法書士をしております。

1988年3月22日生まれ
三重県伊勢市出身(伊勢神宮がすぐ近くにあります。)
伊勢の美しい海と山に囲まれて育ったため穏やかな性格です。
人に優しく親切にをモットーとしております。
写真が趣味でネコと花の写真をよく撮っています。