1 歩合給とは
「歩合給(ぶあいきゅう)」とは、労働者の仕事の成果や売り上げに対して支給する給与のことをいいます。
例えば、「売り上げを300万円上げた社員に対してその1%を支給する」などのように定めて歩合給を支給します。
歩合給を導入することが多い業種としては、
・不動産業の営業職
・保険業の営業職
・タクシー運転手
・自動車ディーラー
・理容師、美容師
などがあります。
これらの業種は労働者個人個人の能力が会社の業績に大きな影響を与えるため歩合給を導入するところが多いです。
2 歩合給の支給形態
歩合給の支給形態としては、①固定給+歩合給、②歩合給のみ支給する完全歩合制、の2種類があります。
①の「固定給+歩合給」の場合、固定給部分があるため毎月一定の額の給与が確保され、それにプラスする形で仕事の成果に応じ、歩合給が支給されることになります。(例えば、固定給:20万円、歩合給:売上金額の1%などのように定められます。)
②の「完全歩合制」の場合は、固定給部分がなく、仕事の成果のみで給与額が決まることになります。したがって、仕事の成果が全くない月だと給与は0円になります。
ただし、完全歩合制は、労働基準法第27条の規定により雇用契約で働かせる労働者に対しては導入することはできない制度となっています。
労働者の給与として歩合給を導入する場合は、労働時間に応じた一定の額の賃金を保障する必要があるので注意してください。(詳しくは後述します)
3 歩合給と報奨金の違いは?
歩合給とよく似た給与として、「報奨金」があります。
報奨金は、仕事の成果などに応じて支払われる点では歩合給と同じですが、毎月の支給ではなく、ある一定の期間の成果に対して支払われたり、支給するタイミングが定まっていないことが歩合給との違いになります。
また「報奨金」は賞与としての性質があるため、通常の報酬とは別に社会保険料が計算されることとなり注意が必要です。
なお、賞与とされるには、支払い回数が年3回までが基準ですので、年4回以上の奨励金の支払がある場合は、「報酬」として扱い、算定基礎の計算に組み込まれます。
※ 「歩合給」についてですが、歩合給の支払基準に達せず、ほとんどの月で歩合給が0円であり、年間3回以下しか基準に達したことによる歩合給の支給がなかったとしても、それは賞与ではないので注意してください。
4 歩合給のメリット・デメリット
①歩合給のメリット
歩合給があると、給与額に上限がなくなります。
したがって、年齢や経験に関係なく能力のある人であれば、どんどん給与を上げていくことが可能です。
会社としても、歩合給を導入することで労働者にインセンティブが働き、労働者が売り上げを伸ばす努力をするようになるといったメリットを得られます。
②歩合給のデメリット
能力次第で給与を上げていくことができる反面、まったく成果がない月は歩合給も0円になります。
したがって、収入を安定させることが難しく、労働者にとって将来設計がしにくいといったデメリットがあります。
また労働者個人個人が自分の成績のことだけを考えるようになるため、チームワークが必要な仕事がうまくいきにくいといった会社側のデメリットもあります。
5 歩合給を支給する際の保障給
労働者の給与として歩合給を導入する場合は、労働時間に応じて一定額の賃金の保障しなければなりません。(保障給:労働基準法第27条)
この保障給の算出方法は、行政通達「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準について(平成元年3月1日基発第93号)」により下記のとおり示されています。
保障給の算出方法
歩合給制度が採用されている場合には、労働時間に応じ、固定的給与と併せて通常の賃金の6割以上の賃金が保障されるよう保障給を定めるものとする。
上記の趣旨は、歩合給制度を採用している場合には、労働者ごとに労働時間に応じ各人の通常賃金の6割以上の賃金が保障されるようにすることを意図したものであって、6割以上の固定的給与を設けなければならないという趣旨ではない。
なお「通常の賃金」とは、原則として、労働者が各人の標準的能率で歩合給の算定期間における通常の労働時間(勤務割に組み込まれた時間外労働及び休日労働の時間を含む。)を満勤した場合に得られると想定される賃金額(上記の時間外労働及び休日労働に対する手当を含み、臨時に支払われる賃金及び賞与を除く。)をいい、「1時間当たりの保障給」の下限は次の算式により算定する。
1時間当たりの保障給 = 通常の賃金 ÷ 算定期間における通常の労働時間 × 0.6
6 歩合給と最低賃金
労働者の歩合給は、前述のとおり「固定給+歩合給」の組み合わせにより支給されます。
最低賃金額は1時間あたりの金額で定められているため、「固定給+歩合給」を1時間あたりの金額に直した額が最低賃金額以上であるかを見る必要があります。
歩合給がある場合の最低賃金
「固定給」と「歩合給」の1時間あたりの金額の算出方法は異なります。
したがって、それぞれ下記の異なる計算式により算出した1時間あたりの賃金を足し合わせ、その合計額と最低賃金額とを比較することになります。
その結果、下記①+② ≧ 最低賃金額 になれば、最低賃金に違反していないことになります。
①固定給部分
(1) 時間給制の場合
時間給額 = 1時間あたりの賃金
(2) 日給制の場合
日給 ÷ 1日の所定労働時間 = 1時間あたりの賃金
(3) 月給制の場合
月給 ÷ 1箇月平均所定労働時間 = 1時間あたりの賃金
②歩合給部分
歩合給の総額 ÷ 総労働時間数 = 1時間あたりの賃金
※ 最低賃金については「最低賃金徹底解説!」をご参照ください。
7 歩合給がある場合の残業代の計算方法
歩合給についても、残業代の算定の基礎に含める必要があります。
ただし、歩合給に係る残業代単価の計算方法は、固定給に係る残業代単価の計算方法とは異なるため、「固定給」と「歩合給」についてそれぞれの残業代単価を算出して合算する必要があります。
具体的な計算方法は下記のとおりです。
歩合給がある場合の残業代の計算方法
① 固定給の残業代単価
月給 ÷ 月平均所定労働時間 × 1.25
日給 ÷ 1日の所定労働時間 × 1.25
時給 × 1.25
② 歩合給の残業代単価
歩合給の場合、残業をすることで成果が上がっているという側面があり、時間外労働の時間単価については、既に歩合給で支払っていると扱われます。したがって、歩合給の1時間の残業代単価の計算は下記のとおりとなります。
歩合給の額 ÷ 1ヶ月の総労働時間(時間外労働時間を含む) × 0.25
③ ①と②の合算
上記①と②で算出した1時間あたりの残業代単価を合算した額が、「固定給+歩合給」の1時間あたりの残業代単価となります。
したがって、(①+②)× 残業時間 で月の残業代が算出されます。
8 歩合給と社会保険料の関係
8-1 算定基礎
社会保険料は4~6月に支払われた報酬の平均額を標準報酬月額とし、同年9月~翌年8月までの社会保険料の計算の基礎とします。(算定基礎)
歩合給も報酬に含まれるため、4月~6月に支払われる歩合給の額が高いほどその年の9月からの1年間の社会保険料が高くなることになります。
8-2 随時改定(月額変更)
昇給・降給等により報酬月額に著しい変動があった場合、上記算定基礎による社会保険料の改定を待たずに随時、社会保険料が改定されます。
これを随時改定(月額変更)といいます。
この随時改定(月額変更)がなされる要件のひとつとして「固定的賃金の変動したこと」があります。歩合給は毎月の成果によりその報酬額が増減しますが、この報酬の増減については「固定的賃金の変動」に該当しません。
したがって、毎月の成果に変動がありその結果、報酬月額に著しい変動があったとしてもそのことをもって月額変更の対象にはなりません。
ただし、歩合給の計算の基礎の変動(例えば、売り上げの1%を支給するところ、2%に変更した場合など)は、固定賃金の変動に該当するため他の要件(2等級以上の変動、対象月の全て17日以上出勤)を満たす限りにおいて月額変更の対象となります。
9 まとめ
最後までお読みいただきありがとうございます。
歩合給のルールは複雑でわかりにくいものです。
歩合給の計算、その他の給与計算でお困りの場合は、社会保険労務士あかつき事務所までご連絡ください。
※ 給与計算に関連する下記の記事も併せてご覧ください。
固定残業代、正しく理解できていますか?
お気軽にお問い合わせください。042-649-4631「ホームページを見た」とお電話ください営業時間 9:00 – 18:00 [ 土・日・祝日除く ]
お問い合わせ投稿者プロフィール
-
東京都八王子市にて、社会保険労務士・司法書士をしております。
1988年3月22日生まれ
三重県伊勢市出身(伊勢神宮がすぐ近くにあります。)
伊勢の美しい海と山に囲まれて育ったため穏やかな性格です。
人に優しく親切にをモットーとしております。
写真が趣味でネコと花の写真をよく撮っています。
最新の投稿
- 労務・法務ニュース2024年3月29日令和6年4月1日から労働条件通知書の記載内容が変わります!
- 労務・法務ニュース2024年2月17日「運送業」、「建設業」、「医師」の時間外労働の上限規制の適用について
- 労務・法務ニュース2024年2月7日令和6年3月の健康保険料率改定のお知らせ
- 労働時間・残業・休日労働2024年1月16日振替休日と代休の違いとは?