皆様こんにちは。八王子市の社会保険労務士 出口勇介 です。
今回は、労使間でよくトラブルになる固定残業代の制度について解説していきます。
1 固定残業代とは?
1-1 固定残業代の意義
固定残業代とは、就業規則や雇用契約で定めた時間(以下、「対象残業時間」)の残業代を実際の残業時間にかかわらず支払う制度のこといいます。
したがって、会社は労働者が、対象残業時間に満たない残業しかしていない場合でも固定残業代の全額を支払う必要があります。
固定残業代を採用する理由は、この点にあります。すなわち、固定残業代を採用することで、労働者にとっては残業時間を抑えれば1時間あたりの給与が増えることになるため、残業を抑制するインセンティブが働き、業務の効率化が図られるようになるのです。
1-2 対象残業時間を超過した場合の取扱い
では反対に、固定残業代の対象残業時間を超えて残業をした場合はどうでしょうか。
この場合、対象残業時間を超える残業時間について残業代を支払う必要があります。
例えば、固定残業代の対象残業時間が30時間である場合に実際の残業時間が40時間であったときは、40時間-30時間=10時間の残業代を固定残業代とは別に支払うことになります。
固定残業代はあくまでも対象残業時間の残業代であるため、超過している時間の残業代は固定残業代の対象にはなりません。
この点を勘違いされている方が非常に多いので注意してください。
もし対象残業時間を超える残業時間の残業代を支払っていない場合は、労働基準法違反となり処罰される可能性があります。
また、給与の時効は3年(2022年1月現在)であるため、遡って3年間の未払残業代を支払う必要もあります。
2 固定残業代の計算方法
固定残業代は、①当該固定残業代の対象残業時間は何時間かという視点と、②対象残業時間○時間の場合に固定残業代はいくらになるかという視点で設計することになります。
2-1 給与額に固定残業代が含まれている場合の計算方法
給与額に固定残業代を含めている場合、対象残業時間又は固定残業代を求めるにあたっては、給与額から固定残業代を引いた額と固定残業代とを分ける必要があります。
①固定残業代の額を予め定め、当該固定残業代の対象残業時間を求める場合
計算式は下記のとおりです。
対象残業時間(X)= 固定残業代 ÷{( 給与の総額 - 固定残業代 )÷ 月平均所定労働時間 × 割増賃金率(1.25倍)}
設問1:基本給18万円(内5万円が固定残業代)、職務手当3万円、月平均所定労働時間160時間のとき、対象残業時間は何時間になるか?
対象残業時間(X)=5万円 ÷ {( 18万円 + 3万円 - 5万円 ) ÷ 160時間 × 1.25 }
対象残業時間(X)=40時間
この場合、月40時間の残業までは、別途残業代を支払う必要はなく、40時間を超えたときは、「その超えた時間×残業代単価(設問では1,250円)」の残業代を支払う必要があります。
②対象残業時間を予め定め、固定残業代がいくらになるかを求める場合
計算式は下記のとおりです。
固定残業代(X)=( 給与の総額 - 固定残業代(X)) ÷ 月平均所定労働時間 × 割増賃金率(1.25倍) × 対象残業時間
設問2:基本給20万円、職務手当4万円、月平均所定労働時間160時間、対象残業時間20時間の場合において固定残業代はいくらになるか?
固定残業代(X) = ( 20万円 + 4万円 - X ) ÷ 160時間 × 1.25 × 20時間
固定残業代(X) ≒ 32,433円
※端数を嫌うのであるならば、固定残業代を33000円のようにキリの良い額にしても差し支えありません。(固定残業代を32,433円ちょうどにする必要はなく、32,433円以上であれば労働基準法に違反しません。)
※この場合、固定残業代を除いた給与額は、20万7567円(24万円-32,433円)となり、当該給与額の1時間単価は、約1,297円(20万7,567円÷160時間(月平均所定労働時間))となります。
このようにして算出した 給与額の1時間単価 が最低賃金未満にならないように注意してください。
2-2 独立した手当として固定残業代を支給する場合の計算方法
次に、給与の総額に固定残業代を含めず、独立した手当として固定残業代を支給する場合の対象残業時間又は固定残業代の計算方法をみていきましょう。
①固定残業代の額を予め定め、当該固定残業代の対象残業時間を求める場合
計算式は下記のとおりです。
対象残業時間(X)= 固定残業代 ÷( 給与の総額 ÷ 月平均所定労働時間 × 割増賃金率(1.25倍))
設問3:基本給20万円、職務手当4万円、固定残業代5万円、月平均所定労働時間160時間 のとき、対象残業時間は何時間になるか?
対象残業時間(X)=5万円 ÷ {(20万円 +4万円) ÷ 160時間 × 1.25 )}
対象残業時間(X)=26時間40分
※ 端数を嫌うのであるならば対象残業時間を26時間としても差し支えありません。(対象残業時間を26時間40分ちょうどにする必要はなく26時間40分以下であれば労働基準法に違反しません。)
②対象残業時間を予め定め、固定残業代がいくらになるかを求める場合
計算式は下記のとおりです。
固定残業代(X)= 給与の総額 ÷ 月平均所定労働時間 × 割増賃金率(1.25倍) × 対象残業時間
設問33:基本給20万円、職務手当4万円、月平均所定労働時間160時間、対象残業時間30時間の場合において固定残業代はいくらになるか?
固定残業代(X) = (20万円 + 4万円) ÷ 160時間 × 1.25 × 30時間
固定残業代(X) = 56,250円
※端数を嫌うのであるならば、固定残業代を57000円のようにキリの良い額にしても差し支えありません。(固定残業代を 56,250円ちょうどにする必要はなく、 56,250円以上であれば労働基準法に違反しません。)
3 固定残業の労使トラブルを避けるには
固定残業代については、給与額のうち固定残業代がいくらなのかや、対象残業時間が何時間なのかが明確でないような場合に、固定残業代の有効性について労使間で争いになることがあります。
もし訴訟に発展し、固定残業代が認められないとなった場合は、残業代を計算し直して、遡って残業代を支払う必要がでてきます。
このような固定残業代における労使トラブルを避けるためにも求人票や、採用時に交付する雇用契約書・就業規則等に下記の点をしっかりと明記しておくことが求められます。
① 給与額に固定残業代を含めいている場合は固定残業代を除いた給与額
② 固定残業代に関する労働時間数と金額等の計算方法
③ 固定残業時間を超える時間外労働、休日労働および深夜労働に対して割増賃金を追加で支払う旨
固定残業代を採用している場合の記載例
上記の点を踏まえた求人票や雇用契約書等への記載例は下記のとおりです。
① 基本給(18万円)(②の手当を除く額)
② 職務手当(時間外労働の有無にかかわらず、40時間分の時間外手当として5万円を支給)
③ 40時間を超える時間外労働分についての割増賃金は追加で支給する
また、固定残業代を採用していることで残業時間の管理が杜撰になったり、対象残業時間を超過した残業時間の残業代を支払わないなどのトラブルもよくみられます。
これらの労使トラブルを発生させないためにも、固定残業代の制度をしっかりと理解し運用するようにしてください。
4 固定残業代を支払っている際の欠勤控除
固定残業代を支払っている場合において欠勤控除をするときは、欠勤控除の対象に固定残業代を含める必要があるのでしょうか。
この場合、固定残業代も欠勤控除の対象にしてもよいし、欠勤控除の対象から外してもよいというのが結論になります。
要は就業規則でどのように定めているかによるということになります。
なお、固定残業代を欠勤控除の対象とする場合には、就業規則に欠勤控除の対象とする旨や、その控除の計算方法を記載しておく必要がある点に注意してください。
また、固定残業代を欠勤控除するということは固定残業代が減少するということなので、その月の対象残業時間も減少します。
例えば、5万円の固定残業代(対象残業時間40時間)から5000円を欠勤控除して4万5000円となった場合、対象残業時間も40時間より短い時間となります。
5 まとめ
最後までお読みいただきありがとうございます。
固定残業代のルールをしっかりと理解していないと未払残業代を遡って支払わなければならない事態になるなど、思わぬ損失が生じてしまいます。
固定残業代や給与計算で困りの場合は、社会保険労務士あかつき事務所までご連絡ください。
※ 給与計算に関連する下記の記事も併せてご覧ください。
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お問い合わせ投稿者プロフィール
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東京都八王子市にて、社会保険労務士・司法書士をしております。
1988年3月22日生まれ
三重県伊勢市出身(伊勢神宮がすぐ近くにあります。)
伊勢の美しい海と山に囲まれて育ったため穏やかな性格です。
人に優しく親切にをモットーとしております。
写真が趣味でネコと花の写真をよく撮っています。
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