1 再就職手当とは
再就職手当とは、雇用保険の失業手当(正式名称は、「基本手当」です。)を受給できる人が、早期に再就職をした場合に、残っている失業手当の60%又は70%に相当する額を国から支給されるものです。
再就職手当の目的
早期に就職した者に再就職手当支給するという制度を設けることで、失業者の再就職を促すことを目的としてます。
2 支給されるには
支給対象者
後述の支給要件をすべて満たす「受給資格者」が支給対象者となります。(雇用保険法第56条の3第1項第1号)
受給資格者とは?
雇用保険の一般被保険者(65歳未満の者であり、かつ短期雇用特例被保険者(季節的に雇用される者で一定の要件を満たしたもの)及び日雇労働被保険者でないもの)が失業をし、離職の日以前2年間に被保険者期間(※1)が通算して12カ月以上(※2)ある者を受給資格者といいます。(雇用保険法第13条第1項)
※1: 離職日から遡って1か月ごとに区切った各期間のうち、賃金支払の基礎となった日(労働した日、有休休暇を取得した日など)が11日以上ある期間を被保険者期間1か月として計算します。 (雇用保険法第14条)
※2:特定受給資格者又は特定理由離職者については、 離職の日以前1年間に被保険者期間が通算して6カ月以上ある場合にも受給資格者となります。 (雇用保険法第13条第2項)
支給要件
再就職手当は、下記の要件をすべて満たした支給対象者に支給されます。(雇用保険法第56条の3第1項1号ロ、雇用保険法施行規則第82条第1項)
① 安定した職業に就くこと(1年を超えて引き続き雇用されることが確実であること)
② 就職した会社で雇用保険の被保険者となっていること
③ 就職した日の前日における失業手当の支給残日数が所定給付日数の3分の1以上であること
④ 前職と同じ会社又はその関連会社への就職でないこと
⑤ 就職した会社から求職の申込み前に、既に内定をもらっていないこと
⑥ 待機期間(最初に求職の申込みをした日から通算して7日間の失業をしている日)を経過してから就職したこと
⑦ 正当な理由のない自己都合退職などにより失業手当の給付が制限されている場合には、待期期間満了後の1カ月以内の間は、ハローワーク又は職業紹介事業者等の紹介による就職であること
⑧ 就職した日前3年以内の就職に関して、再就職手当又は常用就職支度等手当の支給を受けていないこと
3 支給される金額は?
計算の方法
ステップ1:再就職手当の金額を算出するには、まず失業手当の日額(失業している日の1日分の支給額)を算出する必要があります。
失業手当の日額
失業手当の日額は、下記の手順で算出します。
① 賃金日額を計算する(雇用保険法第17条)
離職前の1日あたりの賃金額を「賃金日額」といいます。
被保険者期間(※1)の最後の6か月間の賃金総額 ÷ 180 = 賃金日額(※2、※3)
※1:離職日から遡って1か月ごとに区切った各期間のうち、賃金支払の基礎となった日(労働した日、有休休暇を取得した日など)が11日以上ある期間を被保険者期間1か月として計算します。
※2:日給・時給又は出来高制の場合は、最低保障額があります。
※3:賃金日額には、下表の各年代ごとの上限額と、年齢に関係なく一律の下限(2,577円:令和3年8月1日~)が設けられています。
離職時の年齢 | 賃金日額の上限額 |
29 歳以下 | 13,520円 |
30~44 歳 | 15,020円 |
45~59 歳 | 16,530円 |
60~64 歳 | 15,770円 |
② 失業手当の日額を計算する(雇用保険法第16条)
賃金日額 × 下表の率 = 失業手当の日額
【 離職日に59歳以下の者 】
賃金日額の範囲 | 賃金日額にかける率 |
2,577 円以上 4,970 円未満 | 80% |
4,970 円以上 12,240 円以下 | 80~50% |
12,240 円超 | 50% |
※ この年代の「失業手当の1日分の額」の上限額は、6,120円です。(令和3年8月1日~)
【 離職日に60歳~64歳の者 】
賃金日額の範囲 | 賃金日額にかける率 |
2,577 円以上 4,970 円未満 | 80% |
4,970 円以上 11,000 円以下 | 80~50% |
11,000 円超 | 50% |
※ この年代の「失業手当の1日分の額」の上限額は、4,950円です。(令和3年8月1日~)
ステップ2:算出した失業手当の額から再就職手当の額を計算します。
再就職手当の額
再就職手当の額を下記の手順で算出します。
① 失業手当の所定給付日数を確認する
失業手当は求職活動を行ったが就職できていない日(失業している日)に対して支給されますが、その日数には限度があります。
この限度日数を「所定給付日数」といいます。
退職日における年齢・勤務年数・退職理由などにより、下表のとおり所定給付日数が決定されます。(雇用保険法第22条第1項、第2項、第23条)
【1 一般の受給資格者(下記2・3以外の者) 】
【 2 特定受給資格者又は正当な理由のある自己都合退職者を除く特定理由離職者 】
【3 就職困難者 】
※ 「就業困難者」には、身体・知的・精神障害者(手帳を持っている人)、保護観察中の者などが該当します。
② 失業手当の支給残日数を計算する
失業手当の所定給付日数 - 失業手当の給付を受けた日数 = 失業手当の支給残日数
③ 再就職手当の額を計算する(雇用保険法第56条の3第3項第2号)
失業手当の所定給付日数における支給残日数の割合に応じて下記のように計算します。
【 支給残日数が所定給付日数の3分の1以上3分の2未満 】
失業手当の日額 × 支給残日数 × 60% = 再就職手当の額
【 支給残日数が 所定給付日数の3分の2以上 】
失業手当の日額 × 支給残日数 × 70% = 再就職手当の額
※早期に就職した方がもらえる額が多くなります。
なお、再就職手当が支給された場合は、当該再就職手当の額に相当する日数分の失業手当を支給したものとして扱われます。(雇用保険法第56条の3第5項)
そのため、再就職後に再び離職をした場合において、再就職前の受給資格で失業手当を再度もらおうとするときは、当該再就職手当の額に相当する支給日数分減らされた失業手当しか受給できなくなります。
計算例
月給40万円の雇用保険の一般被保険者(40歳)が、20年勤めた後、自己都合で退職し、失業手当を50日分支給された後再就職したケース
賃金日額 : 400,000円 × 6か月 ÷ 180 = 13,333円
失業手当の日額 : 133,333円 × 50% = 6,667円( 上限が6,120円 )
失業手当の所定給付日数 : 150日
失業手当の支給残日数 : 150日 ー 50日 = 100日(150分の100なので、3分の2以上)
再就職手当の額 : 6,120円 × 100日 × 70% = 428,400円
4 高年齢再就職給付金との併給調整
「再就職手当」の支給を受けることができる人が、同一の就職について、「高年齢再就職給付金」の支給も受けることができる場合、両方の支給を受けることはできず、いずれか一方のみを選択することになります。(雇用保険法第61条の2第4項)
再就職手当の申請をする前に、どちらが多くもらえるかなどを検討してください。
※ 「高年齢再就職手当」は、60歳から65歳の間に再就職した者に対して支給されます。(その他にも要件がありますが詳しくは、別の記事で解説します。)
5 支給申請の手続き
再就職手当の支給を受けることができる場合、下記の手順に従ってハローワークに支給申請を行います。
① 失業手当の支給残日数を確定する
就職した日の前日までの失業している日の認定を受け、支給残日数を確定します。
当該就職の前日までの失業についての認定日は、就職日以降に指定されている認定日の次の認定日までです。
【認定にあたってハローワークに持参する物】
・ 受給者資格証
・ 失業認定申告書
・ 印鑑
・ 就職先の事業主の証明を受けた採用証明書
② 再就職手当の支給を申請する
就職後1カ月以内に、ハローワークに下記書類を提出し、支給申請をする。(雇用保険施行規則第82条の7)
・ 受給資格者証
6 支給された再就職手当は課税されるのか
再就職手当は、非課税です。(雇用保険法第12条)
したがって、再就職手当を受給したことにより所得税・住民税などは増加しません。
7 不正受給者への罰則
返金の命令
偽りその他不正の行為により再就職手当の支給を受けた場合、政府は、不正受給額の全部又は一部の返還を命じることができ(返還命令)、また、不正受給額の2倍に相当する額以下の金額の納付を命じる(納付命令)ことができます。(雇用保険法第10条の4第1項)
つまり、最大で、不正受給額の3倍を返金しなければならない可能性があります。
詐欺罪
不正受給が、詐欺罪を構成する場合は、10年以下の懲役に処せられる可能性があります。(刑法第246条第1項)
投稿者プロフィール
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東京都八王子市にて、社会保険労務士・司法書士をしております。
1988年3月22日生まれ
三重県伊勢市出身(伊勢神宮がすぐ近くにあります。)
伊勢の美しい海と山に囲まれて育ったため穏やかな性格です。
人に優しく親切にをモットーとしております。
写真が趣味でネコと花の写真をよく撮っています。
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