皆様、こんにちは。社会保険労務士の出口勇介です。
昨今、新型コロナウィルス感染症の影響により、日本でもテレワークが普及してきました。
テレワークを導入することで、感染予防の他、労働生産性の向上、通勤手当の節約、優秀な人材を全国各地から採用できるなど様々なメリットがあります。
しかし一方で、労働者の管理が行き届かず、労働時間の把握や費用負担をどうすればよいのかという問題が生じています。
今回は、テレワークを導入するにあたっての労務管理上の注意点について詳しく解説します。
1 テレワークを実施するには
就業規則の整備
テレワークは、就業規則にその根拠がない場合であっても個別の指揮命令によって実施することができます。
よって一時的・臨時的にテレワークを実施する場合、必ずしも就業規則を作成する必要はないでしょう。
しかし、テレワークには様々な労務管理上の問題があります。
そのためテレワークを円滑に実施するためには、あらかじめ就業規則にテレワークのルールを定め、労働者に周知することが望ましいでしょう。
どのような規定を定めるか
就業規則には、テレワークのルールとして、主に下記の事項を定めます。
① 対象業務および対象者
② テレワーク勤務時の服務規律
③ 労働時間、休憩時間、休日
④ 出退勤管理の方法
⑤ 賃金
⑥ 費用負担
⑦ パソコンなどの貸与
など
労働条件通知書による明示
使用者は、労働者を雇用する際に、労働条件通知書を交付して「就業の場所」を明示する必要があります。(労働基準法第15条、労働基準法施行規則第5条第1項第1号の3)
したがって、新規採用者に対して最初からテレワークを実施する場合、労働条件通知書にて、テレワークを行う場所(例:自宅、サテライトオフィスなど)を明示する必要があります。
労働契約の変更
勤務場所や業務遂行方法を労働契約や就業規則などで限定している労働者に対し、新たにテレワークを命じることによってその限定した範囲を超えるような場合は、労働者との合意により労働契約の変更を行う必要があります。(労働契約法第8条)
また、労働者の合意を得ずに、就業規則の変更によってテレワークを実施するような場合は、その変更が労働者の受ける不利益の程度等に照らし合理的なものであると認められること、及びその変更の周知が必要となります。(労働契約法第9条~第11条)
2 テレワークの対象業務および対象者の基準
対象業務
テレワークを実施するにあたり、まずはテレワークの対象業務を選定する必要があります。
一般にテレワークを実施することが難しいとされる業種・職種であっても、個別の業務についてはテレワークを実施することができる場合もあるため、今までの仕事内容の見直しも含めテレワークの対象にできる業務を選定しましょう。
対象者
テレワークの対象者を会社の実情に合わせて決めます。
労働者全員を対象者としてもいいですし、勤続年数によって対象者を決めてもかまいません。
例えば、新入社員や異動直後の社員は、上司や同僚と密にコミュニケーションをとり仕事を覚える必要があるため、勤続年数1年未満の者を対象者から外す、というような運用をすることができます。
また、会社の機密情報保持に問題がない者や、実際にテレワークをすることができる環境にある者に限定するなどの基準を設けることも考えられます。
注意すべきは、テレワークを正社員には認め、非正規社員には認めないというような雇用形態の違いのみを選定基準にすることはできないということです。このような待遇差は、短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律第8条に定める正社員と非正規社員との待遇の「不合理な待遇差」に該当し認められません。
3 テレワーク勤務時の服務規律
テレワークは、上司の直接の管理監督が及ばない働き方です。
したがって、テレワークをしている労働者が守るべき服務規律を就業規則に定め、労働者に周知し、自覚を促すことが大切です。
また、服務規律を守らない労働者に対しては、テレワークの許可を取消すことがあることや懲戒処分の対象となる旨を就業規則に定めおく必要があります。
4 労働時間の管理
使用者は、テレワークをしている労働者に対しても労働時間を適切に把握・管理する義務を負います。
しかし、オフィスに集まらないテレワークでは、労働時間の把握が通常よりも難しく、どのように把握すればよいのかという問題があります。
以下、「通常の労働時間制」、「事業場外みなし労働時間制」、「フレックスタイム制」の3つの制度についてテレワークの労働時間の把握方法について説明します。
通常の労働時間制の労働時間の把握
「通常の労働時間制」を採用している会社では、下記の方法によりテレワークをする労働者の労働時間を把握します。
① 客観的な記録による把握
・パソコンの使用時間の記録など客観的な資料を基礎として始業・終業の時刻を確認する
・入退場の記録を把握できるサテライトオフィスでのテレワークにつき、その入退場の記録により始業・終業の時刻を確認する
② 労働者の自己申告による把握
パソコンを使用していもその使用時間の記録が始業・終業の時刻を反映していないような場合は、労働者の自己申告により労働時間を把握します。
この自己申告制を採用する場合は下記の点に注意が必要です
(1)労働者及び実際に労働時間を管理する者に適正に自己申告を行うことなどについて十分な説明を行うこと
(2)自己申告により把握した時間とパソコンの使用状況など客観的な事実とに著しい乖離があるときは、所要の労働時間に補正すること
(3)自己申告できる残業時間に上限を設けるなど、適正な労働時間の申告を阻害する措置を講じないこと
事業場外みなし労働時間制の労働時間の把握
「事業場外みなし労働時間制」とは、労働者が事業場外で労働していた場合において、その労働時間の算定が困難であるとされるときは、所定労働時間労働したものとみなすという制度です。(労働基準法第38条の2)
テレワークは「事業場外の労働」に該当します。
また、 下記の①②のいずれも満たすときは、テレワークにおける「労働時間の算定が困難な場合」に該当します。
① パソコン等が使用者の指示により常時通信可能な状態におくこととされていないこと
(例:労働者の判断で通信回線自体を切断できる。パソコン等の前から自由に離れることができる。使用者の指示に対する返答のタイミングを労働者の判断に任せている。など)
② 随時具体的な指示に基づいて業務を行なっていないこと
(例:業務の目的、目標、期限等の基本的事項の指示はあるが、1日のスケジュールとして、作業の進め方や作業量、時期を具体的に特定していない。)
これらの要件を満たすと、テレワークをする労働者は所定労働時間労働したとみなされるため、実際の労働時間を把握していなくても(できなくても)よいことになります。
ただし、みなし労働時間とされる所定労働時間は、なるべく実態に合ったものでなければなりません。
使用者は、必要に応じて、所定労働時間内終わることのできる業務量に調整するようにしてください。
フレックスタイム制の労働時間の把握
「フレックスタイム制」とは、ある一定の期間(清算期間)における各労働日について始業・終業の時刻を労働者の自由な選択に委ねることができる制度です。(労働基準法第32条の3)
※導入には、就業規則等に定め、かつ労使協定を締結する必要があります。
フレックスタイム制は、柔軟な働き方であるテレワークになじみやすい制度といえます。
たとえば、後述する中抜けをする労働者に対しても、労働者の自由な意思で終業時刻を繰り下げるなど柔軟に対応することができたり、生活サイクルに合わせて始業・終業の時刻を柔軟に調整できたりします。
ただし、注意していただきたいのは、労働者が自由に始業・終業の時刻を決定できるとはいえ、使用者は、労働者の労働時間を適切に把握する必要はあります。
通常の労働時間制に準じて、適切に労働時間の管理を行なってください。
中抜けの問題
労働者は、テレワーク中も職務専念義務を負っているため、原則として労働時間中は会社の許可なく一定時間の中抜けをすることは許されません。
しかし、テレワークを在宅で行っている場合、育児・介護等のやむを得ない理由により、休憩時間以外の時間に労働以外のことをする必要がある労働者もいます。
そこで、このような労働者のニーズに応えるためあらかじめ就業規則に中抜けルールを設けて対応することになります。
具体的には、中抜けを休憩時間として扱って終業時刻を繰り下げたり、時間単位の年次有給休暇として扱うなどの規定を就業規則に設けて対応します。
長時間労働等にならないように注意
テレワークは上司の直接の管理がなく、また労働者が残業の申告を怠るなどして長時間労働が生じてしまうおそれがあります。
また、プライベートとの境界も曖昧なため、休日であるにもかかわらず仕事したりする労働者もいます。
このような事態を避けるためにも使用者が注意喚起を行い、長時間労働等の発生を防止するようにしましょう。
5 賃金、費用負担
賃金
① 基本給
テレワークであることを理由に基本給を下げることはできません。
基本給を下げたい場合は、労働者に合意をとって労働契約を変更する必要があります。(労働契約法第6条)
なお、就業規則に基本給の額が定められている場合は、その額を下回る額に変更することはできないので注意してください。(労働契約法第12条)
② 通勤手当
会社に通勤する回数が減るため、実費を支給している場合は、当然その分の通勤手当を支払う必要はありません。
また、定期券を支給している会社の場合、会社に通勤する回数に応じた交通費と定期券の額を比較して安い方を支給する対応をとることも可能です。
③ その他の手当て
基本給と同様、テレワークであることを理由に下げることはできません。
費用負担
テレワークを在宅で行う場合、パソコンやその他専用の機器、通信回線利用料、電話料金などのプライベートでも使用するものの費用を使用者と労働者どちらが負担するのか決める必要があります。
「使用者」が費用を負担する場合は、一定の額の手当を支給することで補うことになるでしょう。
その場合、その手当は賃金として扱いますので、割増賃金の算定の基礎になることや、社会保険料や所得税額が変わる場合がある点にも注意が必要です。
なお、「労働者」が費用を負担する場合は、その旨を就業規則に定める必要があります。(労働基準法第第89条第5号)
6 労働者の健康管理
安全衛生法関係法令の適用
テレワークをする労働者に対しても労働安全衛生法等の適用があります。
したがって、使用者は労働者に対して通常の労働者と同様に、下記の安全と健康を確保するための措置を講ずる必要があります。
・健康相談を行うことができる体制の整備
・雇入れの際又は作業内容の変更の際の安全衛生教育の実施
・定期的な健康診断とその結果を受けての措置
・長時間労働者に対する医師の面談とその結果を受けての措置
・ストレスチェックとその結果を受けての措置
など
メンタルヘルス対策
テレワークでは、上司や同僚が周りにいない環境であるため、上司等が労働者の心身の変化に気づきにくい状況となる場合が多くあります。
このような状況のもと、円滑にテレワークを行うためには、健康相談体制の整備や、コミュニケーションの活性化のための措置を講じるなどして、労働者が孤立してしまわないよう注意が必要です。
7 まとめ
いかがでしたでしょうか。
テレワークという働き方が定着すれば、労働者の生産性が向上し、会社にとって大きなプラスになることでしょう。
しかし、みてきたとおり、テレワークを実施するには、様々な労務管理上の注意点があます。
トラブルを予防し、円滑にテレワークを実施するためにもあらかじめ就業規則を定めておくことが重要です。
就業規則の作成に自信がない場合や、作成する時間がないとお悩み方は、当事務所までご連絡ください。
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東京都八王子市にて、社会保険労務士・司法書士をしております。
1988年3月22日生まれ
三重県伊勢市出身(伊勢神宮がすぐ近くにあります。)
伊勢の美しい海と山に囲まれて育ったため穏やかな性格です。
人に優しく親切にをモットーとしております。
写真が趣味でネコと花の写真をよく撮っています。
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