皆様、こんにちは。社会保険労務士の出口勇介です。
本稿では、管理職にまつわる労務管理について注意すべき点を解説します。
1 管理職とは
定義
「管理職」とは、その責任の範囲は会社の規模や種類によって異なりますが、一般的に事業場において部下などを指揮し、組織の運営を担当する者のことをいいます。
一般社員が上司の指示どおりに業務を遂行しなければならないのに対し、管理職は、業務の遂行についてより多くの裁量が与えられています。
しかしその半面、一般社員よりも責任は重くなると考えらえます。
なお、「管理職」は後述する労働基準法上の「管理監督者」よりも広い概念であるため、管理職の肩書きがある者が直ちに労働基準法上の「管理監督者」に該当するとは限らない点に注意してください。
取締役との違い
管理職と取締役との違いは、下記のとおりです。
①契約の種類・内容
【役 員】
委任契約であり会社の経営方針などを決定します。
【管理職】
雇用契約であり取締役等が決定した経営方針の実現のため部下を指揮監督します。
②報酬
【役 員】
株主総会等により報酬額が決定されます。
賃金ではないため金額はいくらであっても差し支えありません。
【管理職】
労働の対価として「賃金」が支給されます。
したがって、最低賃金法や労働基準法の規制を受けます。
③責任の範囲
【役 員】
任務を怠り損害を与えた場合、会社や第三者に対して損害賠償責任を負います。
【管理職】
雇用契約上の義務に違反して損害を与えた場合は、会社に対して損害賠償責任を負うこともありますが、危険責任・報償責任の原則や、使用者と労働者の経済的格差への配慮から、管理職の賠償責任は制限されことがあります。
2 労働基準法上の管理監督者に該当したら
管理職が、労働基準法上の「管理監督者」に該当する場合は、同法の労働時間、休憩及び休日に関する規定が適用されません。(労働基準法第41条)
したがって、「管理監督者」には法定時間外労働・法定休日に対する割増賃金を支払う必要がないということになります。(※深夜時間の割増賃金の支払いは必要です。)
このような不利益があることから、管理者が労働基準法上の管理監督者に該当するかは、その名称等ではなく、客観的な実態に即して判断されることになります。
労働基準法上の管理監督者に該当する基準は、下記のとおりです。(基発第 0909001号平成 20 年9月9日)
管理監督者の該当基準
管理監督者に該当するかは、労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者であって、労働時間、休憩及び休日に関する規制の枠を超えて活動することが要請されざるを得ない重要な職務と責任を有し、現実の勤務態様も、労働時間等の規制になじまないような立場にあるかを、「①職務内容、責任と権限」、「②勤務態様」及び「③賃金等の待遇」を踏まえ、総合的に判断することとなるとされています。
①「職務内容、責任と権限」については、
・労働者の採用に関する責任と権限が実質的に与えられているか
・労働者を解雇できることが職務内容とされていていて、実質的にも関与できているか
・人事考課制度がある場合は、部下の人事考課に関する事項が職務内容に含まれており、実質的にもこれに関与しているか
・労働者の勤務割表の作成又は所定時間外労働の命令を行う責任と権限が実質的に与えられているか
の4つの要素で判断します。
②「勤務態様」については、
・遅刻、早退等により減給の制裁、人事考課での負の評価など不利益な取扱いがされていないか
・自己の労働時間に関する裁量があるか
・部下と同様の勤務態様が労働時間の大半を占めていないか
の3つの要素で判断します。
③「賃金等の待遇」 については、
・部下と比べ基本給、役職手当等の優遇措置があるか
・支払われた賃金の総額が一般社員と比べて同程度以下でないか
・長時間労働により時間単価でみたときに部下よりも下になっていなか
の3つの要素で判断します。
以上の要素を総合的に勘案した結果、与えられた役職が「管理職」であったとしても管理監督者には該当しない場合は、法定時間外労働・法定休日に対する割増賃金を支払う必要がありますので、注意してください。
3 降格・減給はできるか
管理職にある者が、管理職としての能力が低く、その職責を果たし得ない場合に、使用者は、その者を降格・減給することができるでしょうか。
管理職は、前述のとおり部下を指揮監督し、組織の運営を担当する権限を有します。
また、その半面として当該権限を適正に行使する義務があると言えます。
したがって、部下を指揮監督する能力がない管理職については、雇用契約上の義務を果たしていないことになりますので、その者を管理職の地位から降格させることを検討する必要があります。
なお、降格処分については、就業規則にその規定がなくとも、使用者の人事権の行使として裁量的判断によって行うことができるとされています。(懲戒処分が、就業規則にその定めがなければ行うことができないことと比較。)
注意すべきは、降格に伴い、賃金を減額する場合です。
通常、降格には賃金の減額が伴いますが、減額を行うには、減額に客観的な基礎付けがあり、かつ賃金規程等就業規則の一部として労働契約の内容となっているものに従って減額後の賃金が算定されている必要があります。
当該賃金規程ががないような場合は、降格は有効であっても、それに伴う賃金の減額は無効と判断されることがあり得ますので、あらかじめ人事考課制度を設け、管理職の能力や仕事内容等を客観的に評価しておくことが重要です。
4 まとめ
管理職の労務管理についての説明は以上になります。
人事考課制度の構築や、管理監督者に該当しているかの判断についてお困りの方は、社会保険労務士あかつき事務所までご連絡ください。
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東京都八王子市にて、社会保険労務士・司法書士をしております。
1988年3月22日生まれ
三重県伊勢市出身(伊勢神宮がすぐ近くにあります。)
伊勢の美しい海と山に囲まれて育ったため穏やかな性格です。
人に優しく親切にをモットーとしております。
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