出産に関する保険給付① ~ 出産育児一時金 ~

皆様こんにちは。東京都八王子市の社会保険労務士あかつき事務所、代表の 出口勇介 です。

今回は、健康保険の保険給付のうち出産に関する給付である、「出産育児一時金」について解説します。

出産に関する他の保険給付である「出産手当金」については他の記事で解説していますので、そちらをご参照ください。

1 出産育児一時金の目的

健康保険証は病気やケガによって治療を受ける際に使用できるものであるため、病気やケガではない「正常な分娩」には、使用することができません。

したがって、出産にかかる費用は原則として全額自己負担となり、多額の費用がかかることになります。

そこで健康保険では、被保険者(健康保険の加入者)又はその被扶養者が出産した場合に、その費用に充てるため、出産育児一時金を支給する制度を設けています。

※ なお、重度のつわりや切迫早産・切迫流産など医師が異常と判断した場合における検査、入院の費用については、健康保険証が使用でき、3割負担で済みます。

2 出生育児一時金の支給要件

出産育児一時金は、被保険者又はその被扶養者が出産した時に支給されます。(被扶養者の出産については、被保険者に「家族出産育児一時金」が支給されます。給付の内容は出産時育児一時金と同様です。)

この場合の「出産」とは妊娠4か月(85日)以上の出産を指します。

なお、妊娠4か月(85日)以上の出産であれば、生産、死産、流産(人工流産を含む)、早産は問いません。

また、前述したとおり、重度のつわりや切迫早産・切迫流産など医師が異常と判断した場合における検査、入院の費用については、健康保険証が使えるため窓口での支払いは3割負担で済むことになりますが、この場合でも妊娠4か月(85日)以上の出産には、別途、出生時育児一時金が支給されます。

3 支給額

出産育児一時金は、出産した子1児につき40万8000円が支給されます。(令和5年4月1日からは、48万8000円となります。)

また、産科医療補償制度に加入している病院等で出産した場合は、1児につき1万2000円が加算され合計で42万(令和5年4月1日からは、合計50万円)が支給されることになります。

※産科医療補償制度とは、分娩に関連して重度脳性麻痺となった子どもが速やかに補償を受けられる制度で、分娩を取り扱う医療機関等が加入する制度のことです。これに加入する医療機関等は1児につき1万6000円の掛金を負担することから、出産費用がその分だけ増加する可能性があるので、出産育児一時金にその同額を加算しています。

4 申請方法

出産育児一時金の申請方法は、「直接支払制度を利用する方法」、「受取代理制度を利用する方法」、「被保険者自らが申請する方法」の三つの方法があります。

4-1 直接支払制度

直接支払制度」とは、出産前に、被保険者等と医療機関等が出産育児一時金の支給申請及び受取りに係る代理契約をすることで、医療機関等が被保険者等に代わって協会けんぽに出産育児一時金の申請を行ない、医療機関等が協会けんぽから直接、出産育児一時金を支給を受ける制度のことをいいます。

この制度を利用すれば、被保険者自らが協会けんぽに出産育児一時金の申請をする必要がなくなり、また医療機関等での多額の窓口負担がなくなります。

出産後においては、実際に要した出産費用が、医療機関等が受けた出産育児一時金よりも少ない場合又は多い場合に分けて、下記の処理を行います。

① 実際に要した費用が出産育児一時金の額よりも少ない場合

実際に要した費用が出産育児一時金の額よりも少ない場合、被保険者は、協会けんぽにその差額の支給申請をすることになります。

差額の申請は、協会けんぽから医療機関に代理受取額が支払われる前は、「内払金支払依頼書」を、代理受取額が支払われた後は、「差額申請書」を協会けんぽに提出して行います。

② 実際に要した費用が出産育児一時金の額よりも多い場合

実際に要した費用が、出産育児一時金の額よりも多い場合は、退院時にその差額を医療機関等に支払う必要があります。

※ 直接支払制度を利用できない医療機関等もありますので、出産予定の医療機関に確認してください。

4-2 受取代理制度

受取代理制度」とは、本来、被保険者が受け取るべき出産育児一時金を医療機関等が被保険者に代わって受け取る制度のことをいいます。

直接支払制度を導入していない小規模な医療機関等でも、直接支払制度と同様に医療機関等での窓口負担を軽減することができる制度となっています。

実際に要した費用が出産育児一時金よりも少ない場合又は多い場合の処理は、直接支払制度と同様です。

なお、受取代理制度は直接支払制度とは違い、被保険者自らが協会けんぽに対して、「出産育児一時金等支給申請書(受取代理用)」を提出する必要があります。

また、受取代理制度を利用できるのは、出産予定日の2か月以内の人に限られます。

※ 受取代理制度を利用できない医療機関等もありますので、出産予定の医療機関に確認してください。

4-3 被保険者自らが申請する方法

直接支払制度、受取代理制度を利用しない又はできない場合は、出産費用の全額を医療機関等に支払い、出産後、被保険者が自ら協会けんぽに対して「出産育児一時金申請書」を提出することで、被保険者の金融機関口座に出産育児一時金が振り込まれます。

5 退職後(資格喪失後)の出産育児一時金

健康保険の被保険者が、退職などをして健康保険の被保険者の資格を喪失した後に出産した場合であっても次の要件を満たせば、出産育児一時金がされます。

① 被保険者の資格喪失日の前日までに継続して1年以上被保険者であったこと

② 被保険者の資格を喪失した日後6カ月以内に出産したこと

※資格喪失後、被扶養者になった者が、上記の要件も満たしている場合は、自ら出産育児一時金を受けるか、被保険者が家族出産育児一時金を受けるか選択することになります。(両方から支給を受けることはできません。)

6 まとめ

出産には多額の費用が発生しますが、出産時育児一時金という費用面から安心して出産ができる制度があります。

また、次に解説する出産手当金などにより産前産後休業中の所得保障の制度もありますので、忘れずにしかっり活用しましょう。

投稿者プロフィール

八王子の社会保険労務士・司法書士 出口勇介
八王子の社会保険労務士・司法書士 出口勇介
東京都八王子市にて、社会保険労務士・司法書士をしております。

1988年3月22日生まれ
三重県伊勢市出身(伊勢神宮がすぐ近くにあります。)
伊勢の美しい海と山に囲まれて育ったため穏やかな性格です。
人に優しく親切にをモットーとしております。
写真が趣味でネコと花の写真をよく撮っています。