皆様こんにちは。東京都八王子市の社会保険労務士あかつき事務所 代表の出口勇介 です。
今回は、新型コロナウィルス感染症と傷病手当金の関係について解説します。
関連記事として「新型コロナウィルスに感染した社員の処遇」も併せてご一読ください。
1 傷病手当金の概要
「傷病手当金」は、健康保険の被保険者が病気やケガの療養のため労務に服することができないとき、その労務に服することができなくなった日から起算して3日を経過した日から労務に服することができない期間に対して支給される保険給付のことをいいます。(健康保険法第99条第1項)
支給金額は、労務不能日1日につき、原則として「 標準報酬月額の12カ月の平均額 ÷ 30日 × 3分の2 」 となります。(健康保険法第99条第2項)
※ 詳しい制度の内容は、「下記の記事」をご確認ください。
2 新型コロナウイルス感染症に係る傷病手当金
新型コロナウィルス感染症に係る休職が傷病手当金の支給対象となるか否かは、事案によって異なります。
どのような場合に傷病手当金の支給対象となるのかは、下記のとおりです。(新型コロナウイルス感染症に係る傷病手当金の支給に関するQ&A:「令和2年3月6日付け厚生労働省保険局保険課事務連絡」別紙)
2-1 支給対象となるケース
下記の事由により休職した場合は、傷病手当金の支給対象となります。
①風邪の症状や高熱があたったり、倦怠感や呼吸困難などの自覚症状があり労務が困難場合
②自覚症状はないが、医療機関を受診しPCR検査を受けた結果「陽性」と判定された場合
2-2 支給対象とならないケース
下記の事由により休職した場合は、傷病手当金の支給対象にはなりません。
①自覚症状はあるが、自己判断で医療機関を受診せず、自宅療養している場合
②自覚症状がなく、医療機関を受診しPCR検査を受けた結果「陰性」と判断された場合
③自覚症状がなく、医療機関も受診していない場合
④濃厚接触者に該当している場合でも、被保険者本人に自覚症状がない場合
3 医療機関受診前の期間について
傷病手当金の支給申請には、労務不能であるかについて医師の意見書(申請書の4枚目)を提出する必要があります。
したがって、初診日前の期間については医師は労務不能と判断することができない(意見書を提出できない)ため、労務不能であっても傷病手当金の対象となることはありません。
しかし、新型コロナウィルス感染症にの場合は、様々な事情ですぐには受診しないことがあるため下記のような例外的な取り扱いがなされています。
医療機関受診前の期間の例外
自覚症状があったが、医療機関を受診せず自宅療養をしていた場合(2-2の①の場合)において、その後医療機関を受診し、医師の診察の結果、被保険者の既往の状態を推測して初診日前に労務不能の状態であったと認められ、その旨を意見書に記載した場合には、自宅療養をしていた初診日前の期間についても傷病手当金の対象となります。
4 療養担当者の意見書の添付が困難な場合の臨時的措置
新型コロナウィルス感染症の感染拡大を受けて、当面の間の臨時的な措置として、療養担当者の意見書(申請書の4枚目)の添付が困難な場合には、以下の措置を講じることで、意見書の添付を省略することができるようになりました。
意見書の添付を省略する場合の措置
① 傷病手当金支給申請書(2枚目 被保険者用)の申請内容1⃣の「傷病名」及び申請内容3⃣の「発病時の状況」欄に、下記を記入する。
申請内容1⃣「傷病名」
- 「陽性」の方の場合は、「新型コロナウイルス感染症」と記入する。
- 「陰性」または検査未実施であるが、発熱等の症状がある方の場合は、「新型コロナウイルス感染症の疑い}と記入する。
申請内容3⃣「発病時の状況」欄
- 発病時の状況を記入する。
(記入例:38度の熱があり、せきやのどの痛みがあった。濃厚接触者であったためPCR検査をしたら陽性であった など)
②申請期間が14日以上になる場合は、「療養状況申立書」に症状、経過等を記入し、申請書に添付して提出する。
→療養状況申立書のダウンロードはこちら
※ なお、保健所発行の「宿泊・自宅療養証明書」の写しや、「就業制限通知書」及び「就業制限解除通知書」の写しの添付により、申請期間について新型コロナウイルス感染症により療養していたことが証明できる場合は、「療養状況申立書」の添付は不要です。
上記の意見書の添付の省略は、臨時的な措置であること、また、新型コロナウィルス感染症に対してのみの措定であり、他の傷病については、意見書の添付は必要であることに注意してください。
5 会社が休業となった場合
他の社員が新型コロナウィルス感染症に感染した等の理由に会社を休業とした場合は、傷病手当金の対象となるでしょうか。
傷病手当金は、被保険者本人が「病気やケガを負ったこと」が原因で労務不能となることが支給の要件です。
したがって、被保険者本人が新型コロナウィルス感染症に感染していない今回のケースでは傷病手当金は支給されません。
ただし、この休業が、法律等に基づかない会社の独自の判断によるもので、一律に社員を休ませる措置であったときは、使用者から、休業期間中について休業手当(平均賃金の 100 分の 60 以上)の支給があります。(労働基準法第26条)
6 新型コロナウィルスの感染が労災に該当する場合
「傷病手当金」は、病気やケガの原因が業務上の事由以外のものであることを支給要件としています。
したがって、新型コロナウィルス感染症に感染した原因が、業務上のものである場合は、傷病手当金は支給されません。
この場合は、労災保険から、「休業補償給付」が支給されることになります。(3日間の待期期間あり)
業務上感染したとされる事由
下記に該当する場合は、業務上による感染とされ労災保険の休業補償給付の支給対象となります。
①感染経路が業務によることが明らかな場合
②感染経路が不明の場合でも、感染リスクが高い業務に従事し、それにより感染した可能性が高い場合
【感染リスクの高い業務とは】
例1:複数の感染者が確認された労働環境下での業務
例2:顧客等との近接や接触の機会が多い労働環境下の業務
③医師・看護師や介護の業務に従事している労働者については、業務外で感染したことが明らかな場合を除き、原則として業務上感染したとされる
※「休業補償給付」の支給金額は、平均賃金の80%となりますので、多くの場合は傷病手当金よりも高額になります。
投稿者プロフィール
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東京都八王子市にて、社会保険労務士・司法書士をしております。
1988年3月22日生まれ
三重県伊勢市出身(伊勢神宮がすぐ近くにあります。)
伊勢の美しい海と山に囲まれて育ったため穏やかな性格です。
人に優しく親切にをモットーとしております。
写真が趣味でネコと花の写真をよく撮っています。
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